「ERP」とは、企業の経営資源(=ヒト・モノ・カネ・情報)を1つのデータベースで一元管理し、有効活用することを目的とした「考え方」、またはその考え方を実現するための「システム」のことです。
ERPを導入することにより、社内に散在するあらゆるデータを1ヵ所に集約し、企業全体の情報をリアルタイムで把握できるようになるので、迅速な経営判断に役立ちます。
これまでは主に大企業において導入事例の多かったERPですが、近年は製品の種類も豊富になり、中小企業でも取り扱いやすいクラウド型ERPも増えたことで、ますます注目度が高まっています。
そこで今回は、ERPの導入を検討しているが、ERPとは何かいまいち理解しきれていない方向けに、ERPの概要やよく似た「基幹システム」との違い、導入するメリット、導入までの流れ、システム選びのポイントなどについて詳しく解説します。
ERPの種類やメリット・デメリットをよく踏まえた上で、自社にとって本当に導入価値があるかどうかを慎重に見極めましょう。
目次
1.ERPとは?
ERPとは、「Enterprise Resource Planning(企業資源計画)」の略で、企業経営に欠かせない4大資源(=「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」)を1ヵ所に集めて管理し、有効活用するという考え方、またはそれを実現するためのシステムのことです。
もともとは、財務・会計・人事・生産・販売・在庫管理など、それぞれの部門でバラバラに管理していた情報を統合し、リアルタイムにデータ分析を行うことで、経営判断の迅速化・効率化を図るという「概念・考え方」を指します。
しかし近年では、その考え方を実現するために作られた「システム」を指してERPと呼ぶことが多く、「ERP」と「ERPシステム」はほぼ同じような意味を持つ言葉として使われるようになっています。
ERP登場の背景
ERPシステム(以下、ERP)が登場するまで、多くの企業では部門ごとにそれぞれ独立したシステムを導入しており、使用しているデータベースもすべて別々でした。
そのため、部門間でのデータ連携に手間がかかり、「データの重複や矛盾が生じやすい」「二重入力という無駄な作業が発生する」「人為的なミスが起こりやすい」などの課題がありました。
さらに、企業経営における意思決定を行う際に必要となる情報を抽出しようにも、複数のシステムにデータが散らばっているため、目的のデータを見つけ出すまでに多大な時間がかかる点も問題視されていました。
こうした背景を受けて登場したのが「ERP」です。
ERPでは、企業内に存在するあらゆるデータを統一された1つのデータベースで一元管理することが可能であり、組織全体で一貫性が保たれたデータに基づき、ビジネス環境の変化に合わせたタイムリーな意思決定を行うことができます。
世界最初のERPは1973年にドイツで誕生しましたが、海外製のERPがなかなか日本に定着しなかったこともあり、日本でERPのブームが始まったのは2000年代に入ってからです。
日本独自の商習慣に対応した国産のERP製品が数多くリリースされたことにより、大企業を中心にERPの導入が進められました。
しかし近年は、コロナ禍によるテレワークの普及など、働き方の多様化を背景として、場所を問わずに安価で手軽に利用できるクラウド型のERPが注目を集めており、中小企業でもERPを導入する企業が増えてきています。
ERPと基幹システムの違い
ERPと基幹システムは、どちらも企業における主要業務を効率化するために使用されるシステムですが、「基幹システムはERPの一部にすぎない」という点に大きな違いがあります。
ERPは「基幹システム」と「情報システム」の2つから構成されるシステムであり、以下の図のようなイメージで成り立っています。
ERP
ERPは、企業に存在するすべての情報を統合データベースで一元管理し、タイムリーな経営判断に活かすことを目的としたシステムです。
企業全体のデータを単一のデータベースに集約させることで、部門間での情報共有がスムーズに行えるようになり、情報の整合性が保たれます。
また、すべての情報を一元管理するため、リアルタイムでのデータ分析が可能であり、経営状況の可視化やそれに基づく意思決定の迅速化に大いに役立ちます。
ERPはまさしく、企業のリソースを一元管理し、業務プロセスの「全体最適化」を図るためのシステムといえます。
基幹システム
基幹システムは、人事・会計・生産管理・販売管理など、企業が事業活動を行う上で欠かせない主要業務(=基幹業務)を効率化するためのシステムです。
- 財務会計システム
- 人事給与システム
- 生産管理システム
- 購買管理システム
- 販売管理システム
- 在庫管理システム
といった形で、基幹業務ごとにそれぞれ独立したシステムとなっているのが特徴です。
会計システムなら会計業務を、在庫管理システムなら在庫管理業務を効率化する、といったように、各部門の業務プロセスを「部分最適化」するために多く活用されます。
基幹システムは、特定の機能に特化している分ERPよりは低コストですが、それぞれの部門で独立して運用されることが多く、情報が部門ごとに分散してしまいがちです。
そのため、ERPとは異なり「システム間のデータ連携が難しい」「リアルタイムなデータ分析が難しい」という欠点があります。
情報システム
企業経営の根幹となる業務を支えるシステムのことを「基幹システム」と呼ぶのに対し、主要業務とは直接関係しないものの、日々の業務を円滑に効率良く進めるために役立つそれ以外のシステムのことを「情報システム」と呼びます。
情報システムの具体例としては、メールソフト、グループウェア、社内SNS、スケジュール管理ツール、タスク管理ツール、などが挙げられます。
基幹システムとは異なり、「仮にシステムが止まっても業務に致命的な影響を与えることはない」のが情報システムの特徴です。
2.ERPの主な機能
ERPの代表的な機能としては、次のようなものが挙げられます。
製品によって用意されている機能に差があるため、自社業務の特性や現行システムとの兼ね合いに応じて、必要な機能をピックアップしていきましょう。
3.ERPの種類
ERPの種類は、「提供形式」「構築方法」「対応範囲」の違いによって、次のように分類することができます。
- 提供形式の違い:クラウド型/オンプレミス型/ハイブリッド型
- 構築方法の違い:パッケージ型/フルスクラッチ型
- 対応範囲の違い:統合型/コンポーネント型
提供形式の違い:クラウド型/オンプレミス型/ハイブリッド型
ERPは、「どのような形態でサービスが提供されるか」によって、大きく「クラウド型」「オンプレミス型」「ハイブリッド型」の3つに分類することができます。
クラウド型
オンプレミス型
ハイブリッド型
ハイブリッド型は、クラウド型とオンプレミス型それぞれの長所を活かしながら、両者を組み合わせて運用するスタイルのことです。
例として、漏えいが許されない機密データは、セキュリティ面で安心なオンプレミス型のERPで管理し、日常業務や一般的なデータ処理についてはクラウド型のERPを用いる、などの使い分けが考えられます。
構築方法の違い:パッケージ型/フルスクラッチ型
また、ERPは「システムをどのような方法で構築するか」によって、大きく「パッケージ型」と「フルスクラッチ型」の2つに分類することができます。
パッケージ型
フルスクラッチ型
対応範囲の違い:統合型/コンポーネント型
さらに、ERPは「どこまでの業務を対応範囲に含めるか」によっても、大きく「統合型」と「コンポーネント型」の2つに分類することができます。
統合型
コンポーネント型
4.代表的なERP製品10選
ひと口にERPと言ってもさまざまな製品が存在しますが、中でも代表的なものは次の通りです。
- OBIC7(オービックセブン):
株式会社オービックが提供する国産ERP
- SAP S/4HANA(エスエイピー・エスフォーハナ):
ドイツのSAP社が提供する統合型ERP。クラウド型とオンプレミス型の両方に対応。2027年にサポートが終了する「SAP ERP」の後継製品。
- GRANDIT(グランディット):
GRANDIT株式会社が提供する統合型ERP
- マネーフォワード クラウドERP:
株式会社マネーフォワードが提供する、バックオフィス業務の効率化に役立つコンポーネント型ERP
- Oracle NetSuite(ネットスイート):
アメリカのOracle社が提供するクラウド型ERP
- Dynamics 365(ダイナミクス365):
Microsoft社が提供するクラウド型ERP
- GLOVIA iZ(グロービア アイズ):
富士通株式会社が提供する国産ERP
- HUE(ヒュー):
株式会社ワークスアプリケーションズが提供する大手企業向け国産ERP
- クラウドERP ZAC(ザック):
株式会社オロが提供する、プロジェクト型ビジネスに特化したクラウド型ERP
- 奉行V ERPクラウド:
株式会社オービックビジネスコンサルタントが提供するクラウド型ERP
5.ERP導入のメリット
ERP導入のメリットとしては、次の6つが挙げられます。
- 情報の一元管理が可能に
- 経営判断のスピードアップを実現
- 成功企業のベストプラクティスを有効活用できる
- 内部統制やセキュリティの強化につながる
- 業務効率化・人的ミスの削減を実現
- システム運用の負担を軽減できる
情報の一元管理が可能に
ERPを導入する最大のメリットは、自社内にあるすべてのデータを一元管理できることです。
これまで各部門でバラバラに管理していた情報を1つのシステムに集約することで、データを探す手間や労力が省け、企業全体の状況を正確かつリアルタイムに把握することができます。
データの一元化により、情報の重複や不整合を減らし、データ分析の精度をより向上させることも可能です。
経営判断のスピードアップを実現
ERPの導入によって、経営状況に関する最新のあらゆるデータをリアルタイムに把握できるようになるため、意思決定のスピードを格段に上げることができます。
正確で鮮度の高いデータに基づく迅速な意思決定が可能になることで、大きなビジネスチャンスを逃すこともありません。
成功企業のベストプラクティスを有効活用できる
ERPには、既に導入に成功した企業の知識やノウハウが多く反映されており、ERPを利用するだけで、成功企業のベストプラクティスを自社でも有効活用できるというメリットがあります。
成功企業のベストプラクティスに基づいて設計されたERPを活用し、システムに沿って業務フローを再構築することで、企業全体の業務効率化・最適化が期待できます。
内部統制やセキュリティの強化につながる
ERPは、内部統制やセキュリティの強化にも役立ちます。
内部統制とは、社内で不正行為や法律違反が生じないように、ルールや仕組みを構築することです。
ERPでは、データベースが1つに統合されるため、データ改ざんや破棄などの不正行為が起こりにくいほか、万一不正が発覚したとしても、操作ログをたどって直ちに発見できます。
加えて、ERPにはシステム全体で細かなアクセス権を設定したり、2段階認証をはじめとする高度な認証設定を行える機能も組み込まれており、不正アクセスや情報漏えいの防止にも有効です。
業務効率化・ヒューマンエラーの削減を実現
ERPですべての情報を一元管理することで、同じ内容のデータを何度も入力したり、部署間でわざわざデータをやり取りする手間が省けるため、業務効率の向上が期待できます。
ERPの強力なデータ連携機能を活用し、業務プロセスの自動化を図ることで、手作業での入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーを削減することも可能です。
システム運用の負担を軽減できる
従来は、部門ごとに独立したサーバーやシステムが存在していたため、アップデートやセキュリティ対策、設定変更などを個別に運用・管理する必要がありました。
ERPであれば、複数のシステムをまとめて1つに統合できるため、システム運用の無駄を最小化し、作業効率化や業務負荷の軽減につなげられます。
6.ERP導入のデメリット
ERP導入のデメリットとしては、次の6つが挙げられます。
- 自社にマッチしたシステム選定が難しい
- 導入・運用に高額なコストがかかる
- 導入後は社内で定着を促すための取り組みが必要
- 業務フローの見直しや改善が必要
- 導入までに長い期間がかかる
- データの事前整理が必要
自社にマッチしたシステム選定が難しい
ERP導入のデメリットとしては、国内外合わせてERP製品の種類があまりにも多岐にわたるため、その中から自社に合った最適なシステムを選ぶのが非常に困難であることが挙げられます。
世間にはERPの導入を支援するコンサルティング業も存在することから、いかに専門的な知識が必要で骨の折れる作業であるかが分かります。
とは言え、自社の環境や状況にマッチしたシステムを選定しなければ、「既存システムとの整合性が取れない」「データ連携ができない」などの問題が起こりかねません。
それぞれ多種多様な機能を備える膨大なERPシステムの中から、自社の業務に適したシステムを見つけ出すためにも、必要に応じて専門のコンサルタントによるサポートを受けながら、慎重に検討を進めることが求められます。
導入・運用に高額なコストがかかる
ERPの導入には、ある程度まとまったコストがかかります。
オンプレミス型であれば、自社でサーバーを調達して一からシステムを構築する必要があるため、初期費用が割高になりやすいほか、クラウド型ではライセンス費用などのランニングコストが毎月それなりに発生します。
カスタマイズ費用や導入サポート費用、従業員に対するトレーニング費用も無視できません。
製品によって価格はピンキリですが、カスタマイズの度合いやシステムの規模によっては、数百万~数千万円のコストが発生することもあり、特に中小企業にとっては大きな負担となることがあります。
導入後は社内で定着を促すための取り組みが必要
ERP導入後における課題の1つとして、社内全体に新しいシステムを定着させるための取り組みが必要になる点が挙げられます。
導入直後は、これまで慣れ親しんだやり方から業務プロセスが変更になることで、現場メンバーから反発を受けたり、システムの操作方法について問い合わせが殺到することが予想されます。
そのため、導入前の早い段階で「ERPが何の役に立つのか」「導入の目的やメリットは何か」などの周知を徹底し、十分な社内教育を行ったり、運用時のサポート体制を整えておくことで、従業員の不安を軽減し、ERPのスムーズな浸透を促すことができます。
業務フローの見直しや改善が必要
ERPを導入する際は、多かれ少なかれシステムに合わせて従来の業務プロセスを見直す必要がある点にも注意しましょう。
従業員が新しい業務フローに慣れるまでには、業務の一時的な混乱による生産性の低下やミスの増加などが想定されます。
なんにせよ、既存業務フローの見直しや修正を行うには従業員の理解が必要不可欠なため、現場からの強い抵抗を生まないためにも、経営層から明確なビジョンを共有し、変更の理由やメリットを十分に説明することが求められます。
導入までに長い期間がかかる
一般的に、ERPの導入には長い期間がかかり、システムの選定から導入、カスタマイズ、テスト、トレーニング、運用までの全プロセスを完了するには、中小企業でも3~9ヵ月、大企業であれば1年以上かかるとも言われています。
トラブル等で導入プロジェクトが計画通りに進まない場合には、さらにリードタイムが長引くこともあります。
導入期間が長引くと、その分他の業務に与える影響も大きくなるため、いかに導入計画を緻密に立て、リスク管理を徹底するかがカギとなります。
データの事前整理が必要
既存システムから新しいERPへスムーズにデータを移行するには、データのクレンジング(整形作業)や取捨選択を通じて、それぞれの部署でバラバラに管理されているデータを事前に整理する作業が必要になります。
データの整理や集約にあたっては、事前に明確なルールを策定しておくことで、紛失・破損などのトラブルを未然に防ぐことができ、データの整合性や品質を保ちながらERP導入の準備を進められます。
7.ERPの選び方ポイント
数あるERP製品の中から、自社の業務に合ったシステムを選定するためには、以下10個のポイントを押さえておきましょう。
- 自社に必要な機能を備えているか
- システムの提供形態
- 可用性の高さ
- カスタマイズの柔軟性・拡張性
- データ移行しやすいか
- 操作性の良さ
- 導入・運用のサポート体制が充実しているか
- セキュリティ体制が万全か
- 自社と近い業種・規模での導入実績が豊富か
- 導入コストに見合う効果を得られるか
自社に必要な機能を備えているか
まずは、自社の業務に必要な機能が過不足なく搭載されているかを確認しましょう。
機能が不足していないか確認するのはもちろんのこと、機能が多すぎても従業員が使いこなせなければ意味はないので、自社の必要とする機能がバランスよく搭載されているシステムを選ぶのがおすすめです。
市場には多種多様なERPが存在しており、製品によって備わる機能が異なるため、事前にデモンストレーションを見せてもらったり、無料トライアルで実際にシステムを触ってみたりして、自社の業務が問題なく行えるかどうかをしっかりと見極めることが重要です。
システムの提供形態
「クラウド型」か「オンプレミス型」か、あるいは「統合型」か「コンポーネント型」かどうかについても、ERPの選定において欠かせないポイントです。
各タイプのメリット・デメリットや、ERPの導入目的、運用方針、予算等を十分に考慮したうえで、自社に適したタイプを判断しましょう。
クラウド型
- 月額利用料を継続的に支払う必要があるものの、導入コストを抑えられる、システムメンテナンスの負担を軽減できる、柔軟なリソース拡張・縮小に対応できる点がメリット。
- ただし、他のタイプと比べるとカスタマイズ性は低い。
- 「自社でサーバーを持ちたくない」「とにかく早くシステムを導入したい」「初期費用をできるだけ抑えたい」といった企業に最適。
オンプレミス型
- 自社でシステムを構築・運用するため、自社の業務フローやセキュリティポリシーに合わせて柔軟なカスタマイズを行える点がメリット。
- ただし、導入も運用保守もすべて自社で対応する必要があり、初期費用や運用コストが高額になりがち。
- 「強固なセキュリティにこだわりたい」「必要に応じて自由にカスタマイズしたい」といった企業に最適。
統合型
- 企業内のあらゆるデータを一元管理し、1つのシステムで経営に必要な業務をすべてカバーできる点がメリット。
- ただし、導入に多大な時間・コストがかかる。
- バラバラに分散している情報を1ヵ所に集約し、業務効率化やスピーディーな経営判断に役立てたい場合に最適。
コンポーネント型
- 自社の状況や予算に応じて、必要最小限の機能から導入できる点がメリット。
- ただし、後から機能を追加していくうちにシステム内部の構造が複雑化し、運用負担が膨れ上がってしまう可能性も。
- すべての機能を一括導入せず、スモールスタートでの導入を検討している企業に最適。
可用性の高さ
「可用性」とは、システムが安定的に稼働し続けられる能力のことを指します。
ERPの導入においては、システムの安定稼働や障害復旧に関わる項目をチェックすることも非常に重要です。
データバックアップの頻度や、システム障害・災害発生時のデータ復旧可否、復旧完了までに必要な時間などを確認しておきましょう。
カスタマイズの柔軟性・拡張性
カスタマイズ性や柔軟性、スケーラビリティ(拡張性)が十分かどうかも、選定時に考慮すべきポイントの1つです。
独自の業務プロセスを持ち、特殊な業務を行う企業の場合は、ニーズに合わせて自由に機能をカスタマイズできるかどうかを優先的に確認しておく必要があります。
また、将来的にユーザー数やデータ量が増加しても安定して運用し続けられるよう、ビジネスの成長に応じてリソースの拡張を柔軟に行えるかについても忘れずに確認しましょう。
データ移行しやすいか
ERPの導入時には、既存データを新システムに移行する作業が発生するため、データ移行をスムーズに行えるか、互換性があるか、などを事前に確認しておく必要があります。
仮にデータ移行のプロセスが複雑な場合、新旧システム間でデータの整合性が取れなかったり、データの紛失・破損が生じるリスクが高いため、他の製品を検討するのが無難でしょう。
操作性の良さ
ERPは従業員が日常的に使用するシステムとなるため、「初心者でも使いやすいか」「直感的に理解しやすいインターフェースか」「作業をどれだけ迅速に行えるか」といった操作性の良さも重要なポイントです。
機能は同じでも使い勝手が悪いと、業務効率が低下して次第に利用されなくなる可能性があります。
なお、操作方法に困った際に役立つFAQサイトやヘルプ機能が充実していると、問題解決に至るまでの時間が短縮され、従業員の満足度も高まりやすくなります。
導入・運用のサポート体制が充実しているか
導入後、トラブルや困りごとが生じた場合に、ベンダーから手厚いサポートが受けられるかどうかも確認しておきましょう。
例として、次のような観点からサポート体制の充実度をチェックすると良いでしょう。
【導入時】
- 導入に向けた伴走支援サービスが充実しているか
- 導入前に十分なトレーニングサポートが受けられるか
【運用時】
- 使い方が分からない時などに問い合わせできるか
- 受付時間は何時から何時までか
- 対応方法は何か(例:電話・メール・チャット)
- 海外製品の場合、日本語によるサポートがあるか
- 定期メンテナンス、システムアップデート時のサポート内容は何か
- 障害発生時や法改正時のフォロー体制が整っているか
- より効率的に運用するための情報提供を行ってくれるか
一度導入したらそうそうリプレイスしないERPだからこそ、長い目で見た時にきめ細やかなサポートが受けられるシステムを選ぶと安心です。
セキュリティ体制が万全か
ERPには企業の重要な機密情報が集約されており、サイバー攻撃や不正アクセスなどにより、万が一これらのデータが漏えいするような事態になれば、顧客や取引先からの信用を一気に失い、大きな損失につながってしまいます。
そのため、データ暗号化やアクセス権限の管理、認証機能など、システムのセキュリティ機能が自社の求めるレベルに達しているかどうかをよく確認する必要があります。
特に、クラウド型ERPのセキュリティレベルはベンダーに依存することから、データ保護やセキュリティ対策の内容、アップデートの頻度、第三者機関によるセキュリティ認証を取得しているか、などを重点的に確認することが欠かせません。
自社と近い業種・規模での導入実績が豊富か
ERPを選定する際は、他社への導入実績や評判もよく確認しておきましょう。
導入実績が豊富なほど、実際のシステム活用において効果があると立証されていることを示しており、より信頼性の高いサービスだと言えます。
特に、自社と似たような業種・規模での導入成功事例がある場合は、自社の業務にもある程度フィットしやすく、運用上の問題も少ないと考えられます。
導入・運用コストに見合う効果を得られるか
ERPの導入には初期費用と運用コストがかかり、ERPの種類や導入方法によって、どれくらいの予算が必要になるかはそれぞれ異なります。
そのため、初期導入費用、ライセンス費用、メンテナンス費用、カスタマイズ費用、導入サポート費用、教育・トレーニング費用など、全体コストの算出を入念に行ったうえで、長期的に見て最もコストパフォーマンスに優れたERPを選定することが大切です。
ただし、単純に「安ければいい」といったスタイルで選ぶようなことはせずに、「必要な機能を有しているか」「自社業務との適合性は高いか」といった観点も踏まえながら、自社の予算と費用対効果に見合った最適なERPを選びましょう。
8.ERP導入の流れ
ERPの導入は、次の8つのステップで進めていきます。
- 目的の明確化
- プロジェクトの立ち上げ
- 既存業務プロセスの可視化
- 新しい業務フローの策定
- システム選定
- インフラ整備・初期設定・データ移行
- 試験運用
- 本稼働
①目的の明確化
まずは、企業としてERPを導入して何を実現したいのか、導入目的を明確にするところから始めましょう。
「なんとなく便利そうだから」など、導入目的が曖昧な状態のままでは、システムを選定する際の基準が定まらないばかりか、導入後の運用もおろそかになって、利用が形骸化してしまう恐れがあります。
「ERPを導入して成し遂げたいこと」があらかじめ決まっていれば、その目的を実現するために必要な機能は何か判断しやすくなり、導入後の効果も大いに期待できます。
導入目的がすぐに思い浮かばない場合は、最初に現状の課題を洗い出し、それらの課題を解決するために業務上のどんな部分を改善する必要があるのかを検討していくと良いでしょう。
②プロジェクトの立ち上げ
導入目的が明確に定まったら、ERP導入に向けた専用のプロジェクトチームを立ち上げましょう。
ERPはカバーする業務の範囲が広いため、必然的に企業全体を巻き込んだプロジェクトになります。
チームメンバーとしては、まずプロジェクト全体の総責任者を定めて、現行の業務に精通している「各事業部門の代表者」、ITの専門知識に長けた「情シス部門の担当者」、客観的な視点から状況を把握できる「外部コンサルタント」などから構成すると良いでしょう。
導入プロジェクトが長期にわたる場合は、意思決定を行う上層部のサポートを継続的に得られるよう、「経営層に近い役職者」もチームに含めることが望ましいです。
これにより、導入プロセス全体を通じて多角的な視点からの議論が可能となり、経営層と現場両方の要望・ニーズを的確に汲み取って、必要な意思決定を迅速に行うことができます。
③既存業務プロセスの可視化
次に、現行の業務プロセスを詳細に分析し、業務の棚卸しを行いましょう。
今後はERPで管理することになる現行業務について、
- 誰がどのようなシステムを利用しているのか
- どのようなプロセスで作業を進めているのか
- 作業にどのぐらい時間がかかっているのか
- どのようなツールを使って監視・管理しているのか
- イレギュラーな事態が起きた際はどのように対処しているのか
などを1つずつ丁寧に洗い出していきます。
業務の洗い出しには、「現場社員へのヒアリング」や「既存の業務関連資料を参照する」といった方法が有効です。
現状の業務フローを整理することで、どの部分に改善の余地があるかを特定し、ERPの導入によってどの程度改善が見込めるのかを明らかにすることができます。
④新しい業務フローの策定
現行業務の洗い出しと整理が完了したら、棚卸しした内容をもとにERPでカバーする業務範囲を決め、新たな業務フローを検討しましょう。
ただしこの時、現状の業務プロセスにおいて出来ることに重きを置きすぎると、非常に多くのカスタマイズが必要になったり、ERPが本来持つ機能を最大限活用できなかったりして、せっかく膨大なコストをかけて導入したシステムが無駄になりかねません。
従来のフローにとらわれず、業務のさらなる効率化に向けてシステム化・自動化できる部分はないか徹底的に見直し、業務プロセスを根本から再構築していくことが重要です。
⑤システム選定
新しい業務フローを決定し、新システムに求める機能・性能を明らかにできたら、それらの要件を満たすシステムの選定を実施します。
市場には多種多様なERPがあふれていますが、機能・価格・提供形態・サポート体制・セキュリティ対策・将来の拡張性・カスタマイズの容易さなど、複数の観点から比較検討を行い、自社の要件に最も適したシステムを選びましょう。
ベンダーが提供するデモやトライアルを適宜活用し、実際に使用感を確かめながら製品の候補を絞り込んでいくことも大切です。
⑥インフラ整備・初期設定・データ移行
ベンダーとの調整を行い、導入準備が整った後は、ERPを運用するためのインフラ整備や初期設定、データ移行を行う必要があります。
オンプレミス型の場合、サーバーの設定やネットワークの構築を自社ですべて行う必要がありますが、クラウド型の場合は、ベンダーが提供するオンライン上のシステムにアクセスするため、特に自社でインフラ整備を行う必要はありません。
一方、初期設定とデータ移行に関しては、オンプレミス型・クラウド型のどちらも必要な工程になります。
初期設定では、自社の業務に合わせてシステムをカスタマイズしていきます。
データ移行では、必要に応じてデータクレンジング(=整形作業)を行い、データの正確性と整合性を保ちながら、新しいシステムへと既存のデータを移動させます。
⑦試験運用
データ移行の完了後はERPの試験運用を行い、実際の業務環境における機能やパフォーマンスを確認します。
試験運用の段階では、既存システムと併用しながら、「新しく策定した業務フローで日常業務を問題なくこなせるか」「システムが期待通りに正しく動作するか」「他システムとの連携はスムーズに行えるか」などを確認し、運用に支障がないかどうかをテストしましょう。
1~数ヵ月程度継続して試験運用を行い、実務担当者からのフィードバックをもとに問題点や改善が必要な点を洗い出し、不具合を解消してから本格運用を開始することで、導入後のトラブルを未然に防ぎ、ERPの効果を最大限に引き出すことができます。
⑧本稼働
試験運用で大きな問題がなかった、あるいは不具合を解消できたら、いよいよ本格的にERPの運用を始めていきます。
ERPを効果的に活用するためには、従業員がシステムを使いこなせるように、運用ルールの策定や社内教育、マニュアルの作成が必要不可欠です。
また、導入初期は使い方に関する問い合わせやトラブル対応が増えることが予想されるため、サポート体制を強化して迅速な問題解決に努め、業務の中断を最小限に抑えることが重要となります。
そして何より、ERPの本稼働をゴールと捉えず、定期的なモニタリングを通じて、継続的に業務プロセスの改善を行っていくことが大切です。
せっかく導入したシステムを宝の持ち腐れとしないためにも、従業員からのフィードバックを幅広く収集し、常に改善を続けていきましょう。
9.まとめ
いかがでしたでしょうか?
ERPは、企業全体の業務効率化やスピーディーな経営判断に役立つ有用なシステムですが、導入には多大なコストや時間が必要になります。
決して安い買い物ではないため、導入した先で最大の効果を得られるように、現状の業務プロセスに潜む課題を見つけて導入の目的を明確にしてから、自社に合った最適なERPを選びましょう。
なお、当社コンピュータマネジメントでは、「情報システム部門の業務効率化に向けて、専門家の視点から具体的なアドバイスが欲しい」と感じている企業様向けに、情シス支援サービス「ION」を行っております。
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この記事を書いた人
Y.M(マーケティング室)
2020年に株式会社コンピュータマネジメントに新卒入社。
CPサイトのリニューアルに携わりつつ、会社としては初のブログを創設した。
現在は「情シス支援」をテーマに、月3本ペースでブログ更新を継続中。