・お客さんから問い合わせが来たけど、担当者が不在で返事が遅れてしまった
・前任者が突然退職してしまい、業務の引き継ぎができていない
・「担当者によって言っていることが違う」とお客さんからクレームが来てしまった
といったトラブルを経験したことはないでしょうか。
実は、こうしたトラブルはすべて「業務の属人化」に起因しています。
業務の属人化とは、特定の担当者しか業務実態を把握できていない状態のことであり、放置すると会社経営上多くの悪影響をもたらすため、早急な対処が必要な問題といえます。
そこで今回は、属人化が発生する原因やデメリット、属人化を解消するためのポイントについて詳しく解説します。
記事の後半では、属人化の防止に向けた取り組みの例として、当社「経営管理部」の事例もご紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.属人化とは?
属人化とは、ある業務の詳細な内容や進め方、注意点などについて、特定の担当者しか把握していない状態のことを指します。
担当者以外の社員からは「何を・どのような手順で・どれくらいの時間をかけて・どんなことに気を付けて」実施しているのかが分からない、いわゆる「ブラックボックス化」した状態となっているのが特徴です。
一般的にネガティブな意味で用いられており、担当者が欠勤や異動、離職によって不在となった際、代わりにその業務を務められる人がいない状況で発生しやすく、昨今多くの会社で非常に問題視されています。
業務が属人化している職場でよくある状況:
・「今日は○○さんが休みだからこの業務は対応できない」
・「この件は○○さんの意見を聞かないと判断できない」
・「この業務で使う資料の保管場所は、担当の〇〇さんしか知らない」
2.属人化の対義語=「標準化」
属人化の対義語は「標準化」です。業務プロセスがマニュアル化され、誰でも同じように業務が遂行できる状態を指します。
業務を標準化すると、同じ品質を保って製品やサービスを提供できるようになり、担当者の急な欠勤や異動、離職が生じた場合にも、最小限の教育コストで引き継ぎが可能なため、現在では多くの企業が「脱・属人化」を目指して業務の標準化に取り組んでいます。
ちなみに、「標準化」と似たような言葉として「平準化」もありますが、こちらは「社員ごとの負担や労力を均一にする」という意味であり、「誰もが同じように特定の業務を行えるようになる」といったニュアンスは含まれていません。
3.属人化が起こる原因
次に、業務が属人化してしまう原因について詳しく見ていきましょう。
主な原因としては、以下6つが考えられます。
・業務多忙により共有まで手が回らない
・人手不足により共有の必要性を感じない
・業務の専門性が高い
・情報共有の仕組みが整っていない
・自らの高い評価を維持したい
・リモートワークによる情報共有不足
業務多忙により共有まで手が回らない
属人化の原因の1つとして、業務過多により担当者が目の前の業務をこなすのに精一杯で、業務の進め方やノウハウ、注意事項などを他の社員に共有できないパターンが考えられます。
業務内容を複数の社員で共有するためには、マニュアルの策定や教育が必要不可欠ですが、そのためには教える側にも教わる側にも時間的・体力的余裕が必要です。
属人化の進行を食い止めるための第一歩として、まずは業務改善に取り組み「日々の業務で手一杯」という状態から脱却するのが最優先事項といえるでしょう。
人手不足により共有の必要性を感じない
特に、人手不足により担当者1人で業務を回している場合は、業務内容を共有する相手がいないために業務標準化の必要性や意義を感じにくく、ますます属人化に拍車をかけてしまいます。
「ひとり情シス」「ひとり経理」「ひとり広報」など、業務が1人の担当者に依存している状態に陥っていないか、体制を今一度見直してみるのも効果的です。
業務の専門性が高い
プログラミングやサイバーセキュリティ、Webマーケティングなど、「その人にしかできない」という専門性の高い業務は、画一的な手順書やマニュアルを作成しづらく、業務が属人化しやすい傾向にあります。
専門的な知見や高度なスキルが要求される業務では、知識や経験が不足している社員は関わりにくく、その結果ノウハウを持つ担当者が自分の裁量で業務を進めてしまい、属人化が助長されてしまうのです。
その業務の担当者から他の社員へとノウハウを共有・教育していける仕組みがあれば、組織として知識の底上げが見込めますが、何も整えずに放置していると情報共有の機会が減って溝がどんどん深まっていき、さらに属人化が進んでしまいます。
情報共有の仕組みが整っていない
先にも少し触れましたが、ノウハウを共有する体制や仕組みが不十分だと、情報共有が進まず属人化が起こりやすくなります。
特に、情報共有のためのワークフローが機能していない場合や、情報共有に特化したツールを未導入の場合は、社内にナレッジが集まりにくいため注意が必要です。
自らの高い評価を維持したい
情報共有を促す組織文化や評価制度が整っていないために、社員が情報共有に対して消極的になっているケースも少なくありません。
例えば、「個人成果主義」が根付いている組織では、個々人の持つノウハウが結果を残すうえで重要な武器となるため、わざわざ競争相手である他の社員に有益な情報を提供しようとは思わないでしょう。
また、属人化した業務に携わる担当者の中には、あえて自分の代わりを作らないことで自らの地位を守り、社内での高い評価を維持しようとする人もいます。
属人化を防ぐために行うマニュアル作成やスキルの共有が、業績評価に直結しにくいというのも、考えられる要因の1つです。
そのため、情報共有により組織全体の底上げを目指す企業文化の醸成や、情報共有を行った人材を積極的に評価するインセンティブの確立が、属人化の解消を進めるには重要といえるでしょう。
リモートワークによる情報共有不足
リモートワークでは、メンバーが地理的に離れた場所で業務を行うため、コミュニケーション不足になりやすいという問題があります。
リモートワークが浸透してコミュニケーションが不足がちになると、必然的に業務内での情報共有も少なくなり、属人化が加速してしまいます。
4.属人化のデメリット
業務の属人化が引き起こすビジネス上のリスクやデメリットには、下記の6つがあります。
・業務効率の低下
・業務や顧客対応の遅延
・品質が不安定になりやすい
・適正な評価が難しい
・ナレッジやノウハウの喪失
・社内の風通しが悪くなりやすい
業務効率の低下
属人化によるリスクの1つが、業務効率の低下です。
担当者だけしか業務の進め方を知らないブラックボックス化した状況では、外側から業務プロセスについて客観的な評価ができず、業務改善に着手しづらくなります。
さらに、業務が立て込んでいても周囲の人間が適切なフォローに回れず、無駄な長時間労働が発生しやすくなってしまいます。
業務や顧客対応の遅延
属人化してしまった業務は、担当者の不在時に他の社員が代わりに対応できず、業務の遅延が発生しやすくなります。
当該業務の遅延がボトルネックとなり、関連する業務に次々と遅延を生じさせる恐れもあるでしょう。
特に、顧客への対応が遅れると顧客満足度の低下につながり、自社の信頼を失いかねません。
担当者が病気や家庭の事情などで長期間業務を離れることになった場合には、業務遅延にとどまらず、業務そのものが完全に停滞してしまうリスクも考えられます。
品質が不安定になりやすい
業務の品質が安定しにくいという点も、属人化のデメリットの1つといえます。
属人化している業務は、マニュアルや手順書などが存在しないことも多く、アウトプットに関して一定の品質を保つのが難しくなります。
また、担当者しか業務内容や進め方を把握していない状態だと、他の社員が業務の質について客観的な視点から正しく良し悪しを判断できず、ミスを発見・指摘できないばかりにその業務の品質低下を招くことにもなりかねません。
適正な評価が難しい
属人化した業務は、適正な評価が難しいという問題もあります。
担当者しか業務内容の詳細を把握していないため、上司による進捗や品質の管理が難しくなり、どれだけ業務の質が向上したのか、どれだけ以前よりも成長したのかが判断できず、適切な評価を下しにくくなります。
正当な評価を得られないという点では、担当者自身にとってもデメリットとなり得るのです。
また、業務プロセスやリソース、工数などをマネジメント層が正確に把握できないことから、業務量の調整が上手くいかなかったり、人員配置の判断を誤るリスクが生じたりすることもあります。
ナレッジやノウハウの喪失
企業にとって有益な情報の集まりである「ナレッジ」や、専門的な知識・技術が凝縮された「ノウハウ」が蓄積されにくいという点も、属人化のデメリットといえます。
属人化している業務から得られる知見は、あくまでも担当者自身のナレッジ・ノウハウとなるため、もしこれらの情報を組織内で共有・活用する仕組みが整っていなければ、担当者の離職と同時に得られたナレッジ・ノウハウもそのまま企業から失われることになります。
貴重なナレッジやノウハウが丸ごと失われてしまえば、業務の再現性が低下して作業者の違いによる品質のバラつきが目立つようになり、顧客や取引先との良好な関係性の維持が難しくなる恐れもあります。
社内の風通しが悪くなりやすい
属人化により業務の内容や進捗状況が不透明なままだと、担当者と周囲の社員による意見交換の機会は訪れず、組織としての一体感が高まることはまずありません。
それどころか、コミュニケーションの取りづらさが原因で「お互いの領分には口出ししないほうが良い」という風潮が醸成され、ますます社内分断や雰囲気の悪化が加速する可能性があります。
5.属人化のメリット
ここまで、属人化がもたらすリスクやデメリットについてお伝えしてきましたが、実は業務の属人化がメリットとなるケースもわずかながら存在します。
ただし、これらのメリットはごく一部の限られたケースにのみ当てはまるものであり、業務の属人化は基本的にデメリットやリスクが大きいとされていることを心に留めておきましょう。
社内と社外の両方から高い信頼を得られる
属人化した業務があっても、「この業務は○○さんに任せれば大丈夫」という担当者がいる限り、社内では安心感を得られるようになります。
一方、社外でも特定の担当者がその業務に携わることで、顧客や取引先から「あなたが担当だから契約する」というように、会社への厚い信頼獲得やブランド力の維持向上に貢献しているケースもしばしば見られます。
個人の専門的なスキル向上につながる
属人化した業務に携わっている担当者は、その業務に関するノウハウやスキルが飛躍的に高まります。
特に、デザイン系のようなクリエイティブな感性・創造力が必要とされる業務や、法務・会計・プログラミングなどの高度な専門知識が必要とされる業務は、その傾向が顕著です。
また、属人化した業務は担当者に大きな裁量権が与えられている場合も多く、担当者個人の好みに合ったやり方でスキルアップを図れる点もメリットの1つといえるでしょう。
6.属人化してはいけない4つの業務
ここでは、リスクや影響度の大きさから、とりわけ優先的に属人化を防がなければならない4つの業務についてご紹介します。
バックオフィス業務
企業経営の根幹を支える総務・経理・人事労務・法務などのバックオフィス業務は、担当者ごとに業務の進め方が違う、あるいは業務を代行できる人が誰もいないとあっては大問題です。
誰が、いつ担当しても正しい手順で業務を遂行できる状態でなければなりません。
バックオフィス業務に代表されるように、「誰がやっても同じ品質を提供する必要のある業務」については、属人化してはいけない業務の筆頭といえます。
問い合わせ対応・プロジェクト進行業務
顧客からの問い合わせが来た際の対応フローが担当者ごとに異なり属人化していると、担当者が変わった時に対応品質を保てなくなり、最悪顧客からの信用を失いかねません。
また、プロジェクトの進行フローも社員によって大きく異なっていると、
・誰がどの案件をどこまで進めているのか?
・スケジュール遅延はしてないか?
・何か問題は発生していないか?
といった進捗状況の管理に悪影響を及ぼし、プロジェクトの遅延や失敗につながるリスクが非常に高まってしまいます。
対外的な業務や多数のメンバーが関わる業務は特に、属人化を防止する取り組みが必要です。
自社製品・サービスの説明業務
自社製品やサービスの説明についても、対外業務の一部なので属人化改善の優先度は高くなります。
「担当者によって言っていることが違う!」という状況が続くと、顧客に誤解や不安を与えることになり、会社への信頼喪失につながってしまいます。
顧客に混乱を招いて不信感を抱かせないようにするためにも、業務のマニュアル化や社内研修などを通じて、自社製品やサービスに関する基本的な情報の共有を徹底することが大切です。
トラブルやセキュリティインシデントへの対応業務
重大なトラブルやセキュリティインシデントへの対応業務が属人化すると、かえって被害の拡大を引き起こすリスクが高まります。
トラブルやインシデントの発生時は初動対応が肝心ですが、ここで対応を間違えると事態のさらなる悪化や二次被害の発生を招き、企業イメージの低下・社会的信用の失墜は避けられません。
非常時には組織全体で統制の取れた適切なアクションを取れるよう、対応フローをあらかじめ社内で統一しておくなど、優先的に属人化の防止策を講じておく必要があります。
7.属人化を解消する4つのポイント
属人化解消に取り組む際は、以下4つのポイントを押さえておくことが大切です。
・業務フローのシンプル化
・手順書・マニュアルの作成
・ナレッジ・ノウハウの共有
・PDCAサイクルの実施
業務フローのシンプル化
まずは、属人化してしまった業務プロセスの現状を可視化するため、一連の流れで発生する業務や関係する部署・人物、やり取りされる情報(文書・データなど)を細かく洗い出してみましょう。
次に、どの業務がボトルネックになっているのか、特定箇所に集中している業務を分散できないか、業務の流れをもっとシンプルにできないか、といった観点から分析・見直しを行い、その結果をもとに新たな業務フローを作成します。
業務プロセスが複雑になると属人化の傾向も強くなるため、業務の仕組みを簡素化し、誰でも分かるシンプルな業務フローを構築できれば、属人化の解消につながりやすくなります。
手順書・マニュアルの作成
業務の流れを可視化し、業務プロセスを可能な限りシンプルにできたら、業務ごとの手順書・マニュアルを作成します。
業務知識レベルの差に関係なく、マニュアルを見れば誰でも問題なく業務を遂行できるよう、業務の手順・ノウハウ・注意点などをできるだけ詳細かつ具体的に言語化することが大切です。
文章だけではなく、必要に応じて図表や画像も盛り込んでおくことで、さらに理解が深まります。
なお、マニュアル作成にあたりWord, Excel, PowerPointの中でどのツールを使うべきか気になる方は、以下記事も併せてお読み頂くと良いでしょう。
ナレッジ・ノウハウの共有
ノウハウや知識の共有も属人化の解消に欠かせません。
そのためにはまず、ITツールなどを活用して、誰もが気軽に情報共有を行い、誰もが自由に情報を参照できる仕組みを構築しましょう。
ナレッジ共有を組織として定着させるためには、情報共有を促すツールの導入はもちろんのこと、社員が率先して情報共有をしたくなるような社風の醸成や人事評価制度の整備も行うことがポイントです。
PDCAサイクルの実施
属人化の解消に向けた業務フローの見直しやマニュアルの作成、情報共有の仕組み作りが完了しても、それで終わりではありません。PDCAサイクルによる改善を繰り返すことが必要不可欠です。
一度業務の標準化に成功しても、しばらくするとまた新たな無理・無駄が生じたり、より効率的に業務を進められる方法を発見できたりするケースもあるので、実際に運用する中で継続的に評価を行い、問題点や改善点があれば都度修正していくようにしましょう。
8.業務標準化に向けた当社の事例
最後に、属人化防止に向けた取り組みの例として、当社「経営管理部」の事例をご紹介できればと思います。
経営管理部は、社内諸規程の制改定や契約書のリーガルチェックなどを担当している、いわゆる「法務部門」にあたります。
先述した通り、法務のような専門的な知見が要求される業務では、何かと属人化が起こりやすい傾向にありますが、経営管理部ではとある工夫により業務の属人化を防いでいました。
それは、日常業務と並行して「引き継ぎ書」にコツコツと書き込みを続けることです。
経営管理部の部長が、「業務を進める上で、何か気付いたことや注意したほうがいいことがあれば、定期的に引き継ぎ書への追記をお願いしたい」と呼びかけ、部署メンバーがせっせと書き込みを繰り返していました。
一般的に「引き継ぎ書」というのは、担当者の異動や退職が決まってから慌てて作成を開始するケースが多いものの、経営管理部では直近で部署メンバーの異動や退職が予定されていないにも関わらず、既にWordファイル30ページにもわたる「引き継ぎ書」が作成されていたのです。
内容としては、部内の年間作業スケジュール、日次・月次処理、各業務の流れや対応手順などが記載されており、すぐにでも後任者へ仕事を引き継げそうな状態になっていました。
人間はとにかく忘れる生き物なので、自分が業務を離れる直前になって慌ててドキュメントを準備したとしても、必ず抜け漏れが発生します。
そうなると、業務遂行のために必要な情報を過不足なく後任者に伝えられず、引き継ぎ不備によるトラブルが起こることになります。
「後でまとめて作る」のではなく、業務を進めながら「コツコツと書き込みを続ける」ことで、経営管理部では時が経つと忘れがちな「ちょっとしたノウハウ」も、部内で連綿と受け継ぐことに成功しています。
9.まとめ
いかがでしたでしょうか?
業務の属人化は、長い目で見ると企業成長や発展の妨げとなるため、いずれは解消していかなければならない問題です。
誰もが一定の品質を保って業務を行えるようになれば、企業への信頼感も高まり、ひいては顧客満足度の向上にもつながりますので、ぜひ自社に合ったやり方で業務標準化(=属人化の解消)に取り組んでみてはいかがでしょうか。
なお、「情報システム部門の業務標準化に向けて、専門家の視点から具体的なアドバイスが欲しい」と感じている企業様向けに、当社では情シス支援サービス「ION」を行っております。
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この記事を書いた人
Y.M(マーケティング室)
2020年に株式会社コンピュータマネジメントに新卒入社。
CPサイトのリニューアルに携わりつつ、会社としては初のブログを創設した。
現在は「情シス支援」をテーマに、月3本ペースでブログ更新を継続中。